マンドリンというとややマニアックで、日本での演奏者の数も少なくマイナーな楽器のイメージがありませんか?マンドリンが使われる曲のジャンルもブルーグラスやクラシック等やや特定のジャンルですので少し古臭いイメージを持ったり、耳馴染みがないと感じられている方も多いと思います。
今回はそんなマンドリンのイメージを払拭し、マンドリンの魅力を最大限引き出す「Chris Thile」というアーティストについてです。
まずは一曲
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マンドリンがはっきりと前面に出されており楽曲の根幹とも言える音色付けをしています。ポップで聞きやすいのにブルーグラスの砕けた雰囲気もあって和やかです。マンドリンという楽器は音が細めですが他の楽器に飲み込まれないのが凄い。
原曲と比べるとかなりファンキーになってるので違いも楽しんでください。
Chris Thile
※NPR Music Tiny Desk Concertより
詳しく載っているので来歴の詳細はwiki等をご覧ください。
ブルーグラスというと日本ではローカルミュージックとして認識されており、実際のところ日常的に聞かれたりはしないでしょう。日本で言う演歌のようなポジションで若者には聞かれていないのでは?と思われるかもしれませんが実際は現代音楽とうまく混ざっており、聴衆は多く演奏者側にも若い世代が沢山います。
なかでもChris Thileは世界的に有名なマンドリン奏者であり、伝統的ないかにもなブルーグラスをマスターしているのは勿論、どのようなジャンルでもマンドリン・ブルーグラスの音楽性を溶け込ますことに長けています。
「Nickel Creek」「Punch Brothers」といった人気グループで遺憾なく存在感を発揮する彼の音楽を感じてみましょう。
音楽性
基本的にはブルーグラスをルーツとした音楽。
そして素晴らしいアーティストは様々なジャンルの音楽を吸収するのはどの世界も共通のようで、バッハといったクラシックの巨匠や、ジャズサックス奏者のチャーリー・パーカーをカバーしたりとブルーグラスのみに固執せず幅広く活動しています。
彼の良い所は楽器演奏だけでなく、殆どの楽曲でボーカルも兼ねており歌唱力も非常に高いところ。クリアな声質なのでアコースティックな雰囲気にマッチし、力強い部分やハイトーンの透き通った声が楽曲を彩ります。
現在はPunch Brothersでの活動が主でバンドの楽器隊はブルーグラスらしさのある構成のものの、一言で「これはブルーグラスだ」と決めつけられない様な個性ある音楽性となっています。
アルバム「The Phosphorescent Blues」より『Familiarity 』
10分程と長い曲ですが構成が良くてまるで長さを感じさせません。
このアルバムは後ほど改めて紹介します。
演奏技術
演奏技術も一流でマンドリン演奏専門でも充分すぎるほどです。さながらジョージ・ベンソンのような二刀流。アップテンポなブルーグラスにある速弾きも迫力満点にこなします。全体的に感情がこもったような音色なのが特徴かなと。
アドリブにおいても勢いのある速弾きと全力コードストロークでアコースティックな楽器でここまで盛り上げるの?というぐらい盛り上げます。
様々なアーティストとのコラボ
かなりアクティブなChris Thileは様々なジャンルのアーティストと共演しています。
最近で言うと2017年初頭にリリースされた、ピアニストのブラッド・メルドーとのデュオアルバムが話題になっていました。このようにジャンルを超えた共演が多くどんな感じにマンドリンの音が交じるのだろうとワクワクしてしまいます。
一例ですが著名ミュージシャンとのコラボをいくつか紹介していきます。
Julian Lage(ギター)
※Julian Lageのアルバム「Worlds Fair」より・Julianは別記事で触れています→「ジャズギタリストJulian Lageの「 233 Butler 」」
ジャズギタリストのJulian Lage自身もカントリーやブルーグラス系のルーツがあるギタリストなので相性はバッチリ。
強いて言うならアコースティックはいいぞということです。
Brad Mehldau(Piano)
※アルバム「Chris Thile & Brad Mehldau」より『Independence Day 』
Brad Mehldauもよくコラボする人なので当たり前のようにコラボ。メルドーのピアノは個性がかなり強いのでピアノを土台にマンドリンを乗せてるような感じです。
Chris Thileのマンドリンが堪能できるのでおすすめのアルバムでもあります。
Yo-Yo Ma(チェロ)・Edgar Meyer(ベース)
※アルバム「Bach Trios」より
ビッグネーム達とレジェンドネームの曲をアプローチしたアルバムです。
クラシックのような凛とした雰囲気のある曲にもハマる。
Snarky Puppy(バンド)
※Snarky Puppyのアルバム「We Like It Here」より『Lingus』
5:50よりChris Thileのマンドリンソロ
皆大好きSnarky Puppyとも実は共演。これはSnarky Puppyの曲にゲスト参加なのでCDとかはないですが、かなりレアなのではないでしょうか。マンドリンでこの曲のソロをとるとは凄まじい…。
公式の動画だと思うのですが直撮りのようですね。ちなみにエスペランサもいます。
おすすめアルバム(Punch Brothersから)
The Phosphorescent Blues
画家ルネ・マグリット の「恋人たち」という有名な絵画がアルバムの顔になっています。
先程紹介した「Familiarity」が収録されているアルバムで全体的に様々なジャンルが加味されておりどれも聞きやすくポップなものからプログレ気味なもの、そしてブルーグラスの軽さも含まれているのでいつまでも聞けるアルバムです。全部良い曲ですが特におすすめな曲を抜粋し紹介します。
4.I Blew It Off
これは間違いなく傑作バラード。ストリングスの繊細さとどこかある懐かしさが存分に発揮されています。優しげな声色で語りかけるようなボーカルに加え、日常感の出るAメロ、感情を押し出すBメロの構成で感動しますね。
3.Passepied (Debussy)
クラシックと馴染み薄い私ですがベルガマスク組曲は大好きです。
ドビュッシーの有名曲を弦楽器達で曲に合った透明感のあるカバー。原曲の持ち味を消すことなくうまくアコースティックな雰囲気に落とし込んでいます。
流麗とはこういうことを言うのでしょうか。
Who's Feeling Young Now
上のアルバムに比べてブルーグラス寄りの曲が多いです。とはいえキャッチャーさは失われておらず、構えずに陽気に楽しめることがアルバム。アコギや弦楽器をジャカジャカ楽しく弾いてるのを聞くのが好きな人にはガツンと響くはず。
街の広場でお酒をのみながら聞けるような曲が多いアルバムです。
Flippen
フィドルが主役で音数が多くアイリッシュっぽい曲。勢いのある伴奏と跳ねるメロディのアンサンブルが心を踊らせます。各メンバーの演奏技術の高さが伺え、音のダイナミクスの幅をじっくり楽しむのもおつです。
New York City
アップテンポなバラード。歌詞を見てもよく分かりませんでしたが、どことなく悲恋な感じの楽曲。オルタナティブロックとブルーグラス・カントリーが混じったこの雰囲気はどこか親しみやすい。
おわり
Chris Thileの紹介なのにアルバムはPunch Brothers のみになってしまいました。
マンドリンは抑えるところが狭くて弾きにくそうだなと常々思っています。